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circle

サンドラさんとジェリー。





ほんわか ふんわか そろそろり
はるはきています
あそこにも ほら ここにも ほら
たんぽぽ さいています


>>>circle


「なあ、サンドラ」

 小さな公園の張り込み中だった。
 ジェリーが運転席で、私は助手席。前方に油断なく目を配っているけれど、ジェリーの口調は事件の話という感じではなかった。彼は軽口が多いけれど、無駄口を叩く男ではない。ジャックかブライアンの話だろう、と見当をつける。二人は今別行動をしている。
 けれども出てきたのは予想と違う単語だった。

「もう春は来ているよな」
「少なくとも夏はまだ来ていないわね」
「そりゃそうだろ。ビキニの女の子にはまだ時期が早すぎる」
「ジェリー。ビキニの女の子の話をわざわざ張り込み中にするの?」

 いや、と口の中で小さく呟いて、ジェリーはハンドルに覆いかぶさるような体勢になる。一瞬視線をその横顔に向けて、また車外に注意を引き戻した。学校帰りのティーンたちは色とりどりの服を身につけ、楽しげに笑っている。時折肩をすくめるような仕草をするのは、風が吹いているのだろう。今の季節の風には、まだ居座ろうとする冬の抵抗が感じられる。

 けれども分厚いコートを着込んでいる人は誰もいなかったし、張り込み前に近くのチェーン店で買ってきた紅茶も発売されたばかりのストロベリーフレーバーだ。

「・・・・わかんなくなるものかな」
「ジャックのこと?」
「おまえがいないと春が来ないまま夏になるような気がする、だとよ」
「忍び込んだのね」

 ジャックは今でも庭の妻に向かって話しかける。多分、暑い日も寒い日も関係なく。ジェリーは軽く両手を上げた。

「呼ばれてたんだよ。ちゃんと呼び鈴を鳴らして玄関から入り直したさ」
「そう」
「この国の冬はクソ寒くて、みんな春が来るのを心待ちにしているんだぜ。太陽がやって来た、なんて呑気な歌があるくらいだ。なのに気付かないなんて馬鹿なことがあるか?」
「気付かないんでしょ、ジャックは」
「何があっても季節は巡るのにな」

 ジャックは彼自身の輪の中で生きているのよ、という言葉を私は飲み込んだ。
 ジャックにとって、多分何も終わっていないのだ。それでも彼には色々な生き方が残されていると思うけれど、他人がとやかく言う筋合いのことじゃない。そうとわかっていてももどかしくなってしまうのが、ジェリーの優しさなのだろう。わざわざ寂しい言葉をぶつける気にはなれなかった。

 話を打ち切るつもりなのか、ジェリーが窓を少し開ける。張り込みのセオリーには反するけれど、咎めない。今の状況で支障はなかったし、私も外の空気が吸いたかった。

 硬さの残る風がするりと静かな車内に忍び込んでくる。今年最後の冬の匂い。

「この国の春は、ひっそりとやって来すぎるのよ」

 ようやっと呟けた言葉に、ジェリーが笑いを漏らした。

「ベテラン刑事にも気取られないくらいにか」
「このヤマ終わったら、ブライアンのうちにお邪魔しましょ。エスタからもう何度も誘われているから」
「手土産の花束、三人で買ってからな」





fin

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